■恐ろしい 

  たばこの有害性

たばこは長い歴史を持つ嗜好品の一つです。ところが、近年は喫煙による健康への影響が明らかになり、喫煙対策がとられるようになってきています。世界保健機関(WHO)が1970年の総会で、喫煙対策の推進を決議して以来、世界各国で積極的な対策が進んでいますが、日本でも国の「がん対策推進基本計画」(2012~2016年度までの5年間)に初めて、たばこ対策の数値目標が盛り込まれています。

 

■喫煙は成人死亡原因の第1位

 

たばこが健康に有害な影響を及ぼすことは広く社会に知られています。

WHOの報告書などによると、喫煙による年間死亡者数は世界で540万人、受動喫煙で60万人、20世紀中の死亡数では1億人にも達しています。日本では喫煙で年間13万人、受動喫煙で6800人が死亡し、同累計で300万人が亡くなっています。

 

しかし、わが国の喫煙率は先進国の中でも極端に高い数値を示しています。特に男性の喫煙率は高く、習慣的に喫煙している人は32・2%、30~50歳代では4割を超えています。

喫煙は、がん原因のトップで、ほかにも脳卒中や大動脈瘤など、さまざまな疾患を引き起こすことが分かっており、今後、なお一層の喫煙対策が必要です。

 

 

がんは1981年より、日本人の死亡原因の第1位を維持し続けています。

年間約35万人ががんで亡くなっていますが、その原因の3割を喫煙が占めています。2011年9月に発表された厚生労働研究班の研究によると、喫煙が成人死亡原因の第1位であることが分かっています。これによる超過医療費は1・7兆円、入院・死亡による労働力損失は2・3兆円にも上ると推計されています。

 

 

一方、WHOは、喫煙が原因として、喉頭がんや肺がんのほか、口咽頭、食道、胃、膵臓、腎臓、尿管、膀胱などにできるがんを挙げています。

しかも、喫煙による死亡リスクを調査した国立がん研究センターの片野田耕太室長の研究によると、たばこを吸わない人と比較した喫煙者(男性)のがん死亡の危険性は、全てのがんで1・97倍。また、喉頭(5・47倍)、腎臓・尿管・膀胱(5・35倍)、肺(4・79倍)、食道(3・39倍)などのがんリスクが高く、口咽頭(2・66倍)、膵臓(1・58倍)などとなっています。

 

■たばこは毒物の缶詰

 

では、たばこはなぜ健康に悪影響を及ぼすのでしょうか。

厚生労働省の禁煙支援マニュアルには「たばこは毒物の缶詰」と書かれています。

 

たばこの煙の中には約4700種類以上の物質が含まれ、そのうち200種類以上は有害物質。代表的な有害物質にはニコチン、一酸化炭素、タールのほか、カドミウム、砒素、アンモニア、シアン化水素、さらにはダイオキシンなどがあります。

 

ニコチンには依存性があるほか、血管収縮作用や胃酸の分泌促進作用があり、胃潰瘍や十二指腸潰瘍などを引き起こします。タールには約40種類の発がん物質が含まれており、多くのがんを引き起こすとされています。

 

しかし一方で、本人の自覚によって、「喫煙に由来するがんは予防できるがんである」とも言えます。

そこでわが国では、国のがん対策推進基本計画に、がん予防の柱として、たばこ対策の具体的な数値目標を盛り込んでいます。

 

現在、習慣的に喫煙している人は19・5%(男性32・2%、女性8・4%)で、男女ともに減少傾向にあります。喫煙率が下がれば、これらのがんが減る可能性が高いと言えます。

禁煙したい人(男性35・9%、女性43・6%)の禁煙支援を今後進め、喫煙率約4割減の12・2%をめざす方針を掲げています。

 

また、受動喫煙の防止策を強化するため、行政機関や医療機関、職場での受動喫煙をゼロにする取り組み、家庭や飲食店における受動喫煙の減少をめざしています。

 

■禁煙治療に保険適用の病院も

 

日本のたばこ対策の歴史は1960年代に喫煙とがん、慢性疾患などとの因果関係が確立し、97年の厚生白書に初めてたばこの有害性が記載されました。

 

厚生労働省が2002年に発表した「健康日本21」では(1)喫煙が及ぼす健康影響についての知識の普及(2)未成年者の喫煙防止(3)公共の場や職場での分煙の徹底(4)禁煙、節煙を希望する者に対する禁煙支援――などの目標が設定され、公共機関での分煙やたばこ広告の規制など、喫煙対策が積極的に推進されました。

 

03年のWHO総会で喫煙による健康被害防止へ「たばこ規制枠組条約」が採択され、翌年、日本が世界で19番目に「たばこ規制枠組条約」を批准。以降、日本でもたばこ製品への注意文の表示や広告規制を強化、禁煙治療の保険適用などの喫煙対策を進めてきました。

 

06年度の診療報酬改定で導入された「ニコチン依存症管理料」によって、禁煙治療が保険適用されるようになっています。喫煙によるニコチン依存症と診断された人に医師が処方する禁煙補助薬(ニコチンパッチ)が保険適用されたことで禁煙治療の効果は着実に表れています。最近では「禁煙外来」などを設けて禁煙を支援するための治療を行う医療施設も増えています。

 

なお、禁煙治療に保険が使える医療機関は限られているため、事前に医療機関に確認するか、日本禁煙学会のホームページなどで調べることができます。

 

大阪大学大学院の祖父江友孝教授が02年に行った「喫煙と肺がんリスク」を調査した研究によると、5倍近くあった肺がんリスクが禁煙後1~9年で3倍に、10年を過ぎれば1・8倍まで下がり、20年でリスクが無くなるとされています。禁煙の期間が長いほどがんリスクを下げることが分かっています。

 

■なぜたばこがやめられないのか

 

専門医によると、たばこには麻薬などと同じ依存性のある物質ニコチンが含まれているからです。違法性の薬物として取り締まられていないだけで、喫煙者の4割がたばこをやめたいと思っているのに、なかなかやめられないといいます。

 

では、喫煙を減らすにはどうすればよいのでしょうか。

日本には2300万人の喫煙者がいます。やめたいと思っている人は1000万人いるといわれています。

そこで、医療機関や薬局などの禁煙支援環境をもっと利用しやすくする必要があります。自力でやめられない人にとって医療機関は心強い味方ですが、たばこの害、特に周りの人への害を知ってやめる人もいるし、職場や飲食店などの場の禁煙化を進めることで喫煙を減らすことができます。

 

「分煙」という、公共施設や公道に税金で立派な喫煙室を設けている所も日本では増えていますが、かえって喫煙者の固定化を進めていると思います。

 

また、新しい喫煙者をつくらないためにも、子どもに対する徹底した、たばこを含むがんの教育を普及することも重要です。健康でいきいき暮らすためにも、最初から吸わない、「やめたい」を実現するためにも、禁煙治療に真剣に取り組みたいものです。